大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成6年(ワ)2215号 判決

原告

共栄火災海上保険相互会社

被告

三村剛士

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金一五一万八〇〇〇円及びこれに対する平成六年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により物損を被つた訴外日産プリンス大阪販売株式会社(以下「訴外会社」という。)と損害保険契約を締結していた原告が、右保険契約にしたがつて訴外会社に保険金を支払つたことにより、商法六六二条に基づき、訴外会社の被告三村剛士(以下「被告三村」という。)に対する民法七〇九条による損害賠償請求権、被告誠和運輸建設株式会社(以下「被告会社」という。)に対する民法七一五条による損害賠償請求権を取得したとして、被告らに対し右求償を求める事案である。

なお、付帯請求は、訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

二  争いのない事実等

1  交通事故の発生(当事者間に争いがない。)

(一) 発生日時 平成六年七月一五日午前五時五〇分ころ

(二) 発生場所 神奈川県奏野市南矢名九七七先 東名高速道路上り線四七・三キロポスト付近

(三) 事故態様 訴外吉住雄二は、普通乗用自動車(道路運送車両法所定の臨時運行の許可を受けたもの。以下「訴外車両」という。)を運転し、右発生場所を直進していた。

他方、被告三村は、大型貨物自動車(神戸一一く三一〇三。以下「被告車両」という。)を運転し、訴外車両の後方を、訴外車両と同一方向に直進していた。

そして、前方の渋滞のために訴外車両が速度を落としたところ、後方から被告車両の前部が訴外車両の後部に追突し、その衝撃で訴外車両が前方に押し出され、訴外車両の前部がその前にいた他の大型貨物自動車の後部に追突した。

2  訴外車両の所有関係(甲第三号証、証人南政義の証言により認められる。)

訴外会社は、本件事故当時、訴外車両を所有していた。

3  責任原因(当事者間に争いがない。)

被告三村は、本件事故に関し、前方不注視の過失があるから、民法七〇九条により、本件事故により訴外会社に生じた損害を賠償する責任がある。

また、被告三村は、本件事故当時、被告会社の業務に従事中であつたから、被告会社は、民法七一五条により、本件事故により訴外会社に生じた損害を賠償する責任がある。

4  保険契約の締結と保険金の支払(甲第二号証、第四ないし第九号証、証人南政義の証言により認められる。)

訴外会社と原告とは、訴外車両を被保険自動車とする損害保険契約を締結していた。

そして、原告は、訴外会社に対し、右保険契約に基づき保険金二四八万円を支払つたから、商法六六二条により、訴外会社の被告らに対する損害賠償請求権を取得した。

なお、原告は、後日、訴外車両を第三者に金九六万二〇〇〇円で売却し、右売買代金を得たから、原告が被告らに請求しうる金額は、保険金二四八万円から売買代金九六万二〇〇〇円を控除した金一五一万八〇〇〇円である。

三  争点

本件の主要な争点は、訴外車両に生じた損害額である。

四  争点に関する当事者の主張

1  原告

(一) 訴外車両は、訴外会社が一般の消費者に売却するための車両(以下「販売用自動車」という。)であつたところ、自動車保険普通保険約款の販売用自動車の価額に関する特約によると、保険契約における販売用自動車の保険価額は、保険者と保険契約者との間で協定した価額とされている。

そして、訴外車両について、保険者である原告と保険契約者である訴外会社との間で、右価額を金二四八万円と協定していた。

なお、一般には、自動車保険普通保険約款における保険価額は、被保険自動車の価額(被保険自動車と同一車種、同年式で同じ損耗度の自動車の市場販売価格相当額をいう。)であり、の基準によると、販売用自動車の保険価額は新車の市場価格ということになるが、新車の市場価格は各流通段階における適正利潤や運送経費等が含まれているため、これらを除いた各取引段階における取引価格を基準に、保険者と保険契約者は、販売用自動車の保険価額を協定している。

(二) 本件事故により訴外車両が被つた損傷に対する修理費相当額は金八九万〇二九〇円である。

ところで、前記のとおり、訴外車両は販売用自動車であるから、修理を施しても、新車として市場に流通させることは不可能である。したがつて、修理により格落ち損が発生し、右価格は、車両価格である金二四八万円の三割に相当する金七四万四〇〇〇円を下回ることはない。

したがつて、右修理費相当額及び右格落ち損の合計である金一六三万四二九〇円が本件事故により訴外車両に生じた損害額というべきであり、原告の請求する金額はこれを下回るから、当然認められるべきである。

2  被告ら

(一) 原告と訴外会社との間の保険契約における特約は、被告らを拘束するものではなく、被告らは、通常の物損事故における賠償範囲を賠償すれば足りる。

(二) 訴外車両は、本件事故により、修理費金八九万〇二九〇円を要する損傷を被つたから、右金額のみが、本件事故による損害というべきである。

なお、格落ち損は、修理しても自動車としての機能や外観が完全には修復せず、事故前と比較して価値の減少がある場合に、その減少分が損害として認められるべきものである。ところが、訴外車両は、現実には修理をしていないのであるから、右格落ち損を認めるための前提事実がない。

第三争点に対する判断

一1  甲第二号証、第四号証、第六、第七号証、第一〇号証、第一二号証、証人南政義の証言、弁論の全趣旨によると、訴外車両は販売用自動車であること、一般に販売用自動車を被保険自動車とする損害保険においては、保険者と保険契約者は、各取引段階における取引価格を基準に販売用自動車の保険価額を協定していること、本件においても、保険者である原告と保険契約者である訴外会社とは、新車の市場価格から各流通段階における適正利潤や運送経費等を除いた価格を取引価格として、これを基準に、訴外車両の保険価額を金二四八万円であると協定したことが認められる。

そして、これらの事実によると、特に反証のない本件においては、利害関係の相対立する保険者である原告と保険契約者である訴外会社との協定価額を、本件事故の直前の訴外車両の客観的価値と認めるのが相当である。

したがつて、本件事故の直前の訴外車両の客観的価値は金二四八万円であると認めることができる。

2  また、甲第七ないし第九号証、証人南政義の証言、弁論の全趣旨によると、本件事故により、訴外車両は、車体の前部及び後部に損傷を受けたこと、右損傷を修理するには金八九万〇二九〇円を要するとの見積もりが出されていること、訴外車両は修理されることなく、平成六年九月三〇日、中古車取扱業者である訴外株式会社吉岡自動車興業に、同日現在の有姿のまま、金九六万二〇〇〇円で売り渡されたこと、訴外車両は、その後、修理されて中古車市場で取り引きされたであろうことが認められる。

そして、これらの事実によると、特に反証のない本件においては、利害関係の相対立する売主である原告と買主である中古車取扱業者との契約金額を、本件事故の直後の訴外車両の客観的価値と認めるのが相当である。

したがつて、本件事故の直後の訴外車両の客観的価値は金九六万二〇〇〇円であると認めることができる。

二  ところで、不法行為における損害賠償は、当該不法行為がなければ生じたであろう状態を想定し、右状態と当該不法行為があつたために現実に生じた状態とを比較して、その差を不法行為によつて生じた損害として填補することを本質とする。

したがつて、交通事故により自動車が損傷を受けた場合、当該事故による当該自動車の損害の額は、当該事故直前の当該自動車の客観的価値と当該事故直後の当該自動車の客観的価値との差額であるというべきである。

三  一で認定したとおり、本件事故直前の訴外車両の客観的価値は金二四八万円であり、本件事故直後の訴外車両の客観的価値は金九六万二〇〇〇円であるから、本件事故による訴外車両の損害はこれらの差額である金一五一万八〇〇〇円となり、本件事故により、訴外会社は、被告らに対し、右同額の損害賠償請求権を取得したというべきである。

そして、争いのない事実等記載のとおり、原告は訴外会社に保険金を支払つたことにより、訴外会社の被告らに対する右損害賠償請求権を取得したから、原告が被告らに対して請求しうる金額も、右同額である。

なお、前記のとおり、訴外車両が本件事故により受けた損傷を修理するには金八九万〇二九〇円を要する旨の見積もりが出されているが、前記のとおり、訴外車両は、その後、修理された中古車市場が取り引きされたであろうことが認められ、修理によつても本件事故の直前の訴外車両の客観的価値(販売用自動車の新車としての取引価格)を回復することができないことは明らかであるから、右修理費をもつて本件事故によつて訴外車両に生じた損害とすることはできない。

第四結論

よつて、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例